濱田篤郎

 人間の文明は古代、中世、近世、近代と進化を遂げてきた。そしてペストの大流行はその節目毎に出現している。この病気が本来は、ネズミという生物種を維持するメカニズムであったとしても、同時に人間の文明を進化させる魔力として機能しているのかもしれない。  現在、世界に存在するペストの巣窟は3つにとどまらない。4回目の世界流行の果てに、それは北米の砂漠地帯にも新たな拠点を築いたのである。これら巣窟の周囲では、最近でも年間2000人前後のペスト患者が発生している。抗菌剤が発達した現代、その死亡率は10%以下に低下しているが、近年は抗菌剤に抵抗性のペスト菌も少しづつ出現しているのである。  最後の世界流行が発生したのは19世紀末のことで、300年周期とすれば次の流行は22世紀あたりになるだろう。しかし油断は禁物である。ペストは文明の停滞や堕落を常に監視しているのだ。  カミューは「ペスト」の最終章を次のような文章で結んでいる。  「人間に不幸と教訓をもたらすため、いつかペストは鼠どもを呼び覚し、何処かの幸福な都市に彼等を死なせにやってくる」